ないものねだり。

うつ病で休職中。のんびり日常メンヘラブログ。

エモい

読書家な人や、ニアなベーコンレタス的作品が好きな人に必ず勧める大好きな小説がある。

 

 

乾ルカさん著『四龍海城』だ。

文庫本だとタイトルが違って、『君の波が聞こえる』になる。

 

物語の結末を知っている自分にとって、この、『君の波が聞こえる』というタイトルは、意味はよく理解してはいないけれどよく見かける言葉である「エモい!」以外のなにものでもないな、と思う。

 

物語の展開…というか、鍵になるものはそんなに意外性がなくて、推理小説で犯人が最後までわからないタイプの自分でさえ、途中で気づくことが出来るレベルなのだけれど、鍵になるものがなんなのかがわかってしまったからこそ、物語を読み進めるのが辛いと感じる。物語の主軸にあるのは、孤独だった少年2人が心の交流を経て友情を育む話、というのが表向きであるが、この物語の結末を握る鍵の正体に気づいてから、この少年2人の向いている方向や、未来への方角はまったく交わっていないのだと思うと、とてつもなく哀しくて、切なくて、でもそれ以上に美しいとすら思える。

大人でも子どもとも呼べない思春期ならではの「真っ直ぐさ」と「葛藤」。

 

2人は同じ1人ぼっちの子どもだった。でも、長い時間を2人で過ごし、感覚や思いを共有しても、「同じ」にはなれなかった。

 

「思いの強さ」が、

人を前に進ませる勇気を与えることもあれば

それが枷になってしまって動けなくなってしまう人もいる

そんなお話です。

 

思いが強いのはどちらでしょう?

 

どちらもきっと、「同じ」だったはずなのに、2人の結末が交わることがなかったのは「鍵」の正体を知ってしまっていたかどうかだと思います。

でも、なんとなくですけど、鍵の正体を知っていたのが逆の立場だったとしても、2人とも気づいていなかったとしても、2人とも気づいていたとしても、物語の結末は変わらないのではないのかなって思うのです。

何度も何度も、あの作品を読み返す度に、彼は、そっちの道は選ばないのだろうな、と。

そして、彼は、友人は必ず自分とは別の道を選ぶと、心のどこかで感じているのではないのかなあと。

 

彼が友人のためにアレを披露するのは、最初で最後になる、と理解していたのではないのか、「お別れの曲」だとわかっていて尚、彼は1人、ずっと練習を続けていたのではないか、と。

誰よりも賢くて、聡くて純粋で、そして優しい彼のことだから。

 

 

 

 

 

ラストシーン、そして最後の1行を読み終えた後、実在する曲である『フライデー・ナイト・ファンタジー』(金曜ロードショーのテーマソングだったとのこと)を聴きながら。

切ないトランペットの音色を片手に、もう1度ラストシーンを読んで見て欲しい。

 

 

最高にエモい!!!!!という気持ちになれるはず。

エモいという言葉の意味はあまり理解出来ていないけれど、エモいという言葉を耳にする度、見かける度に、この小説のラストシーンを思い返す。

 

 

そのくらい、エモーショナルでなんとも表現しがたい感情が湧き上がる大好きな作品。素敵な小説です。